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お題を頂いてきました。
「恋愛小説が書きたいあなたに10のお題」です。
こう、ベタベタの恋愛を書きたいなーと思ったのでちょっと挑戦してみます!
恐らく、現時点での予定では、一次創作でノーマルで全て進められる予定です。今回と同じ設定で最後まで進めたらなーと。でも、疲れたりとかしたら2次とか入るかも…?(え)気分次第です。

「01.はじまり」は少々予定より長くなりましたが、今後はさくっと短く簡潔に終ればいいなーと思ってます。
…とある人物がナルっぽくなって途中どーしようかと…(笑)いっそパロってやろうか…!とか思ったよ、私は…。

さて、次回はいつになるんでしょう…?(禁句)


それは傍から見ればなんてことはない事だろう。
自分は彼の斜め後ろの席で、たまたま彼のとある行動が目に入っただけ。
きっかけはそれだけの事で、でも、自分にとっては劇的な変化をそれはもたらしたのだ。





はじまりの曲








高校2年生の夏目前というどこか中途半端な時期だった。
1年生の時のように高校生になって初めての夏休みに、自由課題や登校日がないと浮かれるわけでもない。
変わりにそれなりの課題を各教科から出され、結局のところ最後の週には追い込みをかける事は体験済みだ。
それに、3年生の受験目前の夏でもないから、大して切羽詰っていない。
何かあるとするならば、来年は楽しめないだろうから今年の内に来年分も遊んでおこう、それだけだ。

まだ、夏休みまで1週間はある。
土曜日曜は学校は休みなので5日間、それに×6限としても30時間ぐらい拘束されるかと思うと微妙だ。
それでも、どこか生徒も先生も浮き足立っており、反対に生活指導の先生は厳しい表情へと変わっていくのが誰の目にも明らかだった。
ウキウキと夏休みの旅行などの予定を口にする人々とは違い、遠音は多くの学生にとっては短すぎる休みではあったが殆ど予定が入っておらず長いんじゃないのかと感じるぐらいだった。
今は自分という友人と彼氏を天秤にかけ、あっさりと彼を選んだ友人を恨めしげに茶化すぐらいだ。

放課後を向かえ、掃除も終わり、教室からは人の気配が薄くなっていき、反対に廊下や外は賑やかになった。
写真部である遠音にも部活はあったが、個人で作品をしあげるような部活であるし、厳しい上下関係のない文化部だ。
活動時間などは比較的に自由で、急ぐ必要もないし、それ以上に今日はまだ行けない理由があった。
そう補習という存在だ。

休み前の最大の難関である期末試験も終わり、先生の予定の為なのだろうか、まだ一週間あるにも関わらず嬉しい事に夏休み前、最後の補習であるこの授業を受けるだけだった。
尚、自分の名誉の為に言うならば、決して馬鹿ではない。
学校成績は中の上ぐらいだろう。
塾に行かされるより学校で実施される補習という学習機会を利用させてもらっているだけだ。
勉強は嫌いではないが、好きでもないのに、なんて真面目な生徒なんだろうと遠音は自分で自分をそう思わずにはいられなかった。

喧騒から隔絶されたような四角い教室には数人の生徒が押し込められ、やや茶色いわら半紙に印刷された問題と格闘しはじめる
カリカリというシャープペンの音が教室に響く。
微かに白髪が雑じった髪に黒ブチ眼鏡をかけた陰鬱な教師は黒板に早くも解説を書き出していた。
帰宅部の者は早くも帰ったのだろう。
窓の外から微かに楽しげな部活動に励む声が聞こえてくるだけで、静かなものだった。


「…熱っ……」


遠音は徐にパタとシャープペンを机の上へと放り投げ、机の上へと倒れこむが、直ぐに立ち上がると窓の方へと向かった。
数人の生徒から何事かと向けられた視線を綺麗に無視して、窓枠へと手をかけて窓を開け放った。
がらがらと音を立てて開かれた窓からは、じっとりとした湿気った風が入ってきて、遠音の肩で綺麗に切られたやや茶色い髪と白いカーテンを弄るように揺らした。
しかし、その生暖かいそれは不快で、微かに遠音は眉を顰めた。
それでも、ぴしゃりと締め切った教室は息苦しく、その上で熱いとくれば最悪で、こちらの方がいくらかマシだった。

大人しく問題の続きをやろうかと席へと戻ろうとしたその時、視界に何か引っかかるものが霞めていって、思わず二度見する。
問題の人物は斜め前の席に座っている日野或斗というクラスメートの男子だった。
彼の事を遠音はよく知らない。
白いカッターから覗く首は白くて細く、伏目がちの瞼を縁取る睫毛は黒く長く、髪も同じく漆黒色のさらさらな質感を持っていて、男の子にしては艶美だなぁと思わずにはいられない。
確か、友人がカッコイイよねと溜息混じりに賞賛していた事があったが、それは一時の事で、いつしか祟らぬ神云々の如く、話題にも登らなくなった。
そう、彼は容姿で補うことができないほど凶悪に口が悪かったのだ。
遠音自身はその被害を直接受けた事はないが、彼がこの教室を凍らせたかのように沈黙させた場面には何度か立ち会った事があった。
何故、彼に目を奪われたのか、しばし不思議に思い、とりあえず怪しまれないように席に着席しながらも観察をつづけた。

トン トン トトトン

その微かなシャープペンの音に掻き消されてしまうぐらいの音と共に、彼の長く節だった細い指が軽やかに机上を舞っていた。
退屈しのぎの動きではない、明確な意図を持ったその軽やかな動きに惹かれたのだ。

――ピアノだ

彼はピアノの鍵盤を叩くようにして机を軽やかに叩いていた。
単一の音しか発しないはずの、しかも、脚力音を出さないよう抑えているはずなのに、なぜか遠音にはその音楽が聞こえたような気がした。
それは、美しい音楽だった。
夕日が差し込む教室にぴったりと合うような、どこか切なくも温かく優しい音楽で、今はどこで何をしているのか忘れてしまうぐらい、素敵だった。
真剣な眼差しで、頭の中にあるだろうメロディを辿るその様子は、いつにもなして、彼を輝かせてみせて…。


「…トロイ…メライ…?」


呟くようにもれた言葉は、彼にも聞こえたのだろうか、肩がピクリと動いてこちらを振り向いて、視線が絡み合う。
その表情は酷くビックリしたようもので、しかし、それは次第に見た事もないような微かな笑みへと変わる。


「…正解」


よくわかったなという賞賛だろう笑みと、そう一言だけ残して、前を向きなおした彼は、右手にシャープペンを持ちながらも左手は華麗に音を奏でていた。
それは、きっと自分と彼にだけしか聞こえない曲だ。
鼓動が逸って、ドキドキと胸が苦しい。








これは、きっと、恋のはじまりの曲だ









「恋愛小説が書きたいあなたに10のお題」
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